コロナ禍により世の中ではIoT 化やDX 化といったデジタル化が急速に進みました。歯科業界においても、いよいよ本格的な「Digital Dentistry」の時代が到来します。
私は経営コンサルタントとして、少なくとも毎月新たに 10 施設以上の歯科医院の院長先生とお話をさせていただいております。この中で歯科経営において、コロナの前後で大きな変化が起こっていると感じております。それは、「患者数をこなす」経営から「1人の患者様を丁寧にみる」経営へのシフトです。
「1人の患者さんを丁寧にみる」経営においては、ドクターの治療に関する知識と技術、そして患者様への思いが重要であることは言うまでもありません。そして、それらを具現化するためには、然るべき設備、つまりデジタル設備の投資が必要不可欠となります。
本稿では、デジタル設備の投資効果について、ドクターからの生の声を踏まえて、ご説明いたします。
定性的視点から
1.CEREC システムの導入による主な効果
CEREC システムの導入によって、光学印象を行い、歯列のデジタルデータを基に補綴物を設計し、院内で削り出すことができるようになります。これによる主な効果は以下のとおりとなります。
①白い歯をすぐに提供
天然歯と遜色ない白い歯をすぐに装着することができることは、患者様にとってやはり大きな魅力となります。
②高精度・高審美性の仮歯をすぐに提供
院内で仮歯を手作業で製作すると、精度・審美面で問題点が残ることがあり、製作時間もかかります。これらの悩みが一気に解決します。
③治療期間の短縮
ワンビジットトリートメントが可能になります。また、複数歯の歯冠修復であっても、大幅に治療期間を短縮できます。
④こだわりの仮歯・補綴物を製作
ドクター自ら設計・加工することができるため、これまで歯科技工所に伝わりづらかったこだわりの補綴物製作を実現できます。
⑤感染リスクの低減
印象材による接触型の印象採得がなくなるため、コロナ、B型・C型肝炎等の感染リスクを低減できます。
⑥医療廃棄物の削減
印象材、石膏模型、医療用グローブ等の医療廃棄物を削減し、SDGs に貢献できます。
⑦再印象による患者様とのトラブルの回避
印象採得から補綴物の製作における手作業に起因するヒューマンエラーによる再印象がなくなり、患者様とのトラブルを回避できます。
⑧治療の説明の質の向上
光学印象によって取得できる歯列の3次元画像を回転・拡大・縮小し、患者様にとって視覚的にわかりやすい説明を行うことができます。
⑨アライナー矯正(SureSmile )の展開
プライムスキャンを導入すれば、デンツプライシロナ社のデジタルラボとの連携によって、高精度なアライナー矯正を手軽に展開できます。
⑩先端設備導入による職場環境の改善
印象材による印象採得、歯科技工所への外注にかかる業務等がなくなり、職場環境の改善に繋がります。スタッフのモチベーション向上や求人効果も期待できます。
2.デジタル歯科用CT の導入による主な効果
①精緻な診査・診断に基づく治療精度の向上
低被ばくながら必要な範囲の立体構造が手に取るようにわかるようになります。また、STL データとの連携によるSureSmile の治療効率の向上、CEREC システムとの連携によるサージカルガイドの内製も可能になります。
②感染リスクの低減
患者様がCT 撮影のために他院に行く必要がなくなるため、コロナ等の感染リスクを低減することができます。
③睡眠時無呼吸症候群治療等における医科との連携
気道解析用SW:SICAT Air と連携させることにより、睡眠時無呼吸症候群治療等の精度を上げることができます。積極的な医科との連携は他院との差別化に繋がります。
定量的視点から
1.CEREC システム導入による収益構造の改善
保険診療において、いわゆる「逆鞘現象」が解消され、歯科用金属相場に左右されない収益構造となります。また、歯科技工所への外注費の削減によって、粗利益が保険診療において1.7倍、自由診療において1.3倍となります。さらに、自由診療において、1月当り平均10歯のペースでCAD/CAM 製の冠(CEREC)を提供した場合には、年間1,100万円超の粗利益を期待できます。
試算1
保険診療(1歯当り)
(金額単位:円)
補綴物 | 収入 | 支出 | 粗利益 | 比率 | |||||
形成 | 印象採得等 | 装着 | 合計 | 技工代 | 材料代 | 合計 | |||
金属冠(外注) | 1,660 | 820 | 4,920 | 7,400 | 2,500 | 6,667 | 9,167 | ▲1,767 | – |
CAD/CAM冠(外注) | 6,360 | 820 | 14,540 | 21,720 | 10,500 | 10,500 | 11,220 | 1.0 | |
CAD/CAM冠(CEREC) | 6,360 | 820 | 14,540 | 21,720 | 0 | 3,200 | 3,200 | 18,520 | 1.7 |
※1 金属冠における材料重量は2.5g、金パラ相場は80,000円/30gと想定する。
※2 CERECの材料代(ブロック、バー、フィルター、電気代、水道代等)を3,200円と想定する。
自由診療(1歯当り)
(金額単位:円)
補綴物 | 収入 | 支出 | 粗利益 | 比率 | ||
技工代 | 材料代 | 合計 | ||||
オールセラミックスクラウン(外注) | 100,000 | 25,000 | 25,000 | 75,000 | 1.0 | |
オールセラミックスクラウン(CEREC) | 100,000 | 0 | 3,700 | 3,700 | 96,300 | 1.3 |
※ CERECの材料代(ブロック、バー、フィルター、電気代、水道代等)を3,700円と想定する。
試算2
保険診療(1年当り)
(金額単位:円)
補綴物 | 粗利益 | 本数 | 粗利益 | 比率 | |
1歯当り | 1月当り | 1年当り | 1年当り | ||
金属冠(外注) | ▲1,767 | 20 | 240 | ▲424,000 | – |
CAD/CAM冠(外注) | 11,220 | 20 | 240 | 2,692,800 | 1.0 |
CAD/CAM冠(CEREC) | 18,520 | 20 | 240 | 4,444,800 | 1.7 |
自由診療(1年当り)
(金額単位:円)
補綴物 | 粗利益 | 本数 | 粗利益 | 比率 | |
1歯当り | 1月当り | 1年当り | 1年当り | ||
オールセラミックスクラウン(外注) | 75,000 | 10 | 120 | 9,000,000 | 1.0 |
オールセラミックスクラウン(CEREC) | 96,300 | 10 | 120 | 11,556,000 | 1.3 |
2.デジタル歯科用CT 導入による収益構造の改善
1月当り5回の撮影を想定すると、年間70万円超の収入を期待できます。
保険診療(1年当り)
(金額単位:円)
機器 | 撮影数 | 保険点数 | 収入 | ||
1月当り | 1撮影当り | 1月当り | 1年当り | 1年当り | |
デンタル | 200 | 58 | 11,600 | 139,200 | 1,392,000 |
パノラマ | 40 | 402 | 16,080 | 192,960 | 1,929,600 |
CT | 5 | 1,170 | 5,850 | 70,200 | 702,000 |
合計 | 4,023,600 |
総括
CEREC システムとデジタル歯科用CT の導入によって、治療品質が向上し、治療期間を短縮でき、他院との差別化を実現できます。これによって患者様の満足度・ロイヤルティが向上し、既存の患者様からの紹介・口コミによって、商圏の拡大を期待することができます。また、歯科用金属相場に左右されない収益構造となり、歯科技工所への外注費の削減によって、収益構造が大幅に改善できます。
数多くの歯科医院の中で、これからも患者様から選ばれ続ける歯科医院となるため、「Digital Dentistry」への対応は必須と考えられます。